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昔の遊びそのN 身の周り鉄製品との関わり

昔の遊びとは少し外れるかもしれませんが、昔に学んだことからです。
私ももうすぐ定年退職、40年以上、鉄に関わる仕事をしてきました。
私なりに「工業高校を卒業以来、なぜこれほどまでに続いてきたかな」と考えるこの頃です。
工業高校1年の時、機械材料の勉強が楽しかったことが自分の仕事に生かされたことではないかと思います。
機械材料、或いは金属材料は鉄を主として金属の性質、加工、機械などに使われる材料の授業です。
身の回りには鉄で作られたものが一杯あります。これらは鉄の性質をうまく利用しています。
例えば、包丁、ナイフ、かまなどは鋼を使い刃の部分は焼入れをして硬くして切れやすく、背は焼きを入れず粘りがあります。
鉄橋の枠組みは焼き入れをせず粘りを生かし、橋を釣るワイヤーはピアノ線と同じで焼入れをして硬く強靭です。
机の骨組みは軟らかい材料を使い、曲げやプレス加工がしやすいものです。
下水のマンホールは鉄の中でも炭素を多く含んだ鋳物が材料で、砂で型を作り解けた材料を流し込んで形を作り、機械で削りません。
工業高校1年の夏休み、機械材料の宿題が出ました。
「ブルドーザーの先端の刃先は何で出来ているのか調べてくる」の一つでした。そして先生はヒントを出しました。
「毎年同じ宿題を出しているので先輩に会って聞いても良い、本を捜してまとめてもよい、図書館に行って調べても良い。
このような本は名古屋・鶴舞図書館にあります」。 私は友達と相談して、鶴舞図書館に行きました。
わからないことばかり、受付で尋ね、本のある場所に着き、色々と探しました。でも専門書をめくっていってもなかなかみつけられません。
やっと、それらしき所にぶつかりましたが、そこには先輩達が付けた印がありました。
コピーもない時代、必要な部分を書き写してきましたが、内容はわずか数行だったと思います。
先生は夏休みが終わり、宿題について説明してくれました。「ブルドーザーの刃先は土、石や岩を削るので摩耗しにくい(減っていかない)材料でなければいかん。だから硬い材料になる。
でも余りにも硬いとガツーンと岩にぶつかったら欠けてしまうことも考えなきゃならん。答えは硬くて粘り(強靭性)がある材料ニッケルクローム鋼を焼入れした鋼です」。
そして、生徒達が目的を充分達成したと感じられたのか、宿題の提出はありませんでした。
前に遊びと勉強には境がないと書きましたが、一生の仕事にも境がないのではないと思います。
誰でも知っているブルドーザーの一部を調べる学習から、多くのことを教えてもらった。
友達同士で相談したり、考えたりして知恵を絞ること。自分ひとりで行ったこともない名古屋へ行き、色んな人に会って目的達成に進む。
初めての図書館で探すむつかしさや見つけた時の喜びを知る。学校での勉強が目の前のブルドーザーにつながる。
また、勉強への興味が湧いてくる。 勿論、生徒全員がややこしい鉄に興味があるわけではありませんが、その努力を先生がしていただいたことに感謝しています。
数年前に先生にお礼を告げたところ、「民間の製鋼会社を途中退職して先生になった。僕はデモ・シカ先生」「デモ・シカ先生とは頭が悪いので何処も行くところがない、先生でもなるか、また先生しかなれなかったことをいうのです」と言って見えました。
まだ、15歳、入学して4ケ月の子どもの私達でしたが、工業高校の先生の宿題は人生の成長への宿題でもありました。
人々はこうして大人になっていく。勉強ばかり頭でっかちではなく、遊びばかりに偏るでもなく、経験や体験と学習が本物の人間に成長させていくのでしょう。

2007.08.10
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